つくば宇宙フォーラム

第46

宇宙生命計算科学 -生体アミノ酸カイラリティ宇宙起源の検証に向けて-

梅村 雅之 氏

筑波大学 宇宙理論研究室


要旨

生命体の基本分子であるアミノ酸は,実験室で作成すると,左巻き(L型)と右巻き(D型)が同量生成される。 しかし,地上の生命のアミノ酸は基本的にL型しか使われていない。 これを,鏡像異性体過剰ないしホモ・カイラリティという。 鏡像異性体過剰は,19世紀のパスツール以来100年以上にわたって謎になっている。 その起源を宇宙空間に求める説がある。 1969年,オーストラリアのマーチソン村に隕石が落下し,その隕石からアミノ酸が検出された。 そして,わずかではあるが鏡像異性体過剰が発見された。 2010年には,超高温の隕石からアミノ酸が発見され,大気圏通過の際に変成することなく落下することが分かった。 鏡像異性体過剰は,実験をすると自己触媒作用により急速に増大する。 よって,アミノ酸の鏡像異性体過剰が宇宙空間で起こり,隕石を通じて地球に運ばれ,それが地上で急速に増幅した可能性がある。 また,実験室で円偏光波を当てると鏡像異性体過剰が引き起こされる(光不斉化)。 近年になって,星形成領域で円偏光波が発見され,宇宙空間でアミノ酸の鏡像異性体過剰が起きた可能性が指摘されている。 現在のところ宇宙空間ではアミノ酸前駆体しか観測されていないが,将来アミノ酸そのものが観測される期待もある。 宇宙空間で,円偏光波によるアミノ酸の鏡像異性体過剰を引き起こす可能性を確かめる有力な方法が,量子化学計算である。 目下,宇宙・生命・物質計算科学協働の下,円偏光波によるアミノ酸の電子励起状態の円2色性(Circular Dichroism, CD)を時間依存密度凡関数理論(TDDFT)による 量子力学計算で調べている。 本フォーラムでは,宇宙空間におけるアミノ酸光不斉化を検証する計算科学の取り組みについて紹介する。