第3回
銀河系内のブラックホール候補天体は,中心天体への質量降着にともなうガスの重力エネルギーの解放により輝いていると考えられており,様々なX線スペクトル状態(Low/Hard 状態,High/Soft状態, etc...),状態遷移を示す。これらのX線スペクトル状態は粘性円盤モデルによってある程度説明されるが,磁場を考慮していない従来のモデルでは説明できない状態 (例えば,Bright/Hard状態(Miyakawa et al. 2008),Bright/Slow遷移(Gierlinski & Newton 2006)など)も存在する。近年の三次元磁気流体シミュレーション及び輻射磁気流体シミュレーションにより,降着円盤における磁場の重要性が指摘されており,特に磁気応力による角運動量輸送,磁気エネルギーの散逸による円盤ガスの加熱が,降着円盤の構造,状態遷移において重要な役割を果たしていることが明らかになった。更にMachida et al. (2006)により,光学的に薄い放射が非効率なガス圧優勢円盤(RIAF-likeな円盤)が,冷却不安定により鉛直方向に急激に収縮すると,方位角方向の磁場をほぼ保存して収縮するため,光学的に薄く放射が効率的な磁気圧優勢円盤が準定常的に形成されることが解った。我々はこれらの結果を踏まえて,磁場を考慮してブラックホール降着円盤の一次元定常モデルを構築し,その熱平衡解及び遷音速解を求めた。その結果,降着率が比較的高い場合に,磁気圧優勢な熱平衡解が存在し,従来の理論モデルでは説明できなかった,明るいハードな状態(Bright/Hard状態)及び明るいHard-to-Soft遷移(Bright/Slow遷移)を説明することに成功した(Oda et al. 2007, 2009)。また,光学的に厚い場合にも磁気圧優勢な熱平衡解が存在し,有効温度の半径依存性が標準円盤と同じことから,X線スペクトルに見られる黒体放射成分を説明する可能性があることも解った。本セミナーではこれらのモデルを二温度モデルに拡張し,光学的に薄い場合の放射冷却機構として制動放射だけでなく,シンクロトロン放射,逆コンプトン散乱の効果を含めた結果についても紹介する。